愛玩動物看護者の倫理綱領 解説

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Ⅰ 動物に対する倫理と責任

  1. 愛玩動物看護者は、動物の生命と権利を尊重し、動物愛護と福祉の向上に努める。

      愛玩動物看護者は、動物の生命尊重と愛護、福祉の向上を基本に行動する。一方で、動物の生命尊重や愛護、福祉と人の生存や利益の間には相反する矛盾が生じることも多く、動物看護者の判断や行動には、極めて高度な倫理的配慮が求められる。人が動物に対していかにあるべきかの規範は、概ね人を主体として成立している。動物医療に携わる者は、動物を主体として捉え、動物は人に対して何を求めているかを、常に考えながら適切な対応を選択しなければならない。

  2. 愛玩動物看護者は、動物種の特性、行動を理解し、必要な援助を考え、普遍的愛情をもって動物看護を提供する。

      動物の身体機能、習性、食性など動物種による特性に配慮し、飼養管理はその知識に基づいて実施する必要がある。また、動物の行動発現には、生得的行動、生後に獲得した習得的行動がみられる。人と動物との関係において、時に人に対して不都合な問題行動を示すことに遭遇する。動物看護者はその行動の意味を十分に理解し、また動物飼養者に対しても正しい関わり方を説明し、飼養者と動物の関係を損なうことなく生活できるよう働きかけることが求められる。動物医療においては、病状、治療の過程により動物にもたらされる療養上の苦痛を最小限にするよう工夫し、また動物が、自ら苦痛を防御する行動を発現した場合にも、愛情をもち適切な看護に努める。

  3. 愛玩動物看護者は、対象となる動物が危険な状況にあるとき、適切な動物看護の提供が阻害されている場合は、その動物の保護および安全確保に努める。

      愛玩動物看護者は「動物の愛護および管理に関する法律」の理念を正しく理解し、動物の保護にあたる責務がある。動物医療の進歩は、高度な治療を可能にした一方、治療費の高騰を引き起こしている。その問題は、飼養者の決定権に関わる。しかし、愛玩動物看護者は常に看護動物の立場に立ち、その保護に努め、飼養者の選択が看護動物にとって最良となり、看護動物と飼養者の幸福な生活への支援となるように努める。

 

Ⅱ 飼養者に対する倫理と責任

  1. 愛玩動物看護者は、動物飼養者に対して誠意を持って対応し、信頼関係を築くよう努め、その信頼関係に基づき動物看護を提供する。

      動物看護の対象は動物である。一方、動物に影響を与える関係者についても考慮を要する。飼養者の国籍、人種、民族、宗教、信条、年齢、性別および性的指向(性的マイノリティなどの別をいう)、社会的地位、経済状態、ライフスタイル、健康状態等に左右されてはならない。また、動物の病状や気持ちは動物飼養者によって代弁される。結果的に、動物看護は動物飼養者と動物看護者における信頼関係を基盤として成立する。適切な知識と技術による動物看護も、信頼関係のもとで初めて効果を成す。動物看護者は、自らの行動について動物飼養者に理解と同意を得る説明を行い、その結果に責任を持つことを通して信頼を得るように努める。

  2. 愛玩動物看護者は、動物飼養者の知る権利および決定権を尊重する。

      愛玩動物看護者は、対象となる動物飼養者の理解度や意向を確認し、分かりやすい説明、意思表示しやすい場づくりや調整を働きかける。動物飼養者の自己決定は、十分な情報に基づき動物飼養者自身が選択するだけではなく、決定を他者に委ねる選択をすることもある。動物看護者は、動物飼養者の意思と選択を尊重し、自己決定権を行使できるよう支え、動物飼養者の判断や選択が、看護動物と動物飼養者にとって最良のものとなるように支援する。

 

Ⅲ 動物看護実践と責任

  1. 愛玩動物看護者は、業務上知り得た動物飼養者並びに看護動物の情報を保護し、守秘義務を遵守する。また、これを他者と共有する場合には十分な配慮のもと適正に管理する。

      愛玩動物看護者は、看護動物と動物飼養者に関する個別情報を知る機会が多い。「個人情報保護法」では、動物を個人の財産として認めており、個人の属性に関する情報は保護の対象としている。愛玩動物看護者は、動物飼養者から病歴や飼養状況を聴取する際には、その目的をよく説明しなければならない。また、動物看護記録やカルテ(診療簿)の閲覧、管理に注意し、情報の漏洩を防止する。質の高い動物医療や動物看護を提供するには、他者と情報共有をする場合もあり、あらかじめ対象となる看護動物の飼養者に共有する情報の内容と必要性を説明し、同意を得るように努める。

  2. 愛玩動物看護者は、自らの意思を持ち、自己の責任と能力を的確に判断した上で動物看護を実践し、自らの看護に責任を持つ。

      愛玩動物看護者は、自己の看護能力を認識し、相応の動物看護実践に努めると同時に、看護責任を負わなければならない。また、担当した動物に対する看護行為については、動物飼養者並びに他の動物医療福祉関係者に説明し、看護業務を引き継ぐ際には他の愛玩動物看護者との連絡を密にし、動物看護の継続性を維持するように努める。

  3. 愛玩動物看護者は、自ら学習を継続し、動物看護に必要な知識と技能の維持向上に積極的に努める。

      動物看護技術や動物医療技術は、日進月歩であり、動物の社会性や価値観の変容も著しい。時代の進歩に即した動物看護の知識と技術を持つには、不断の努力が求められる。また、動物看護能力の維持と開発に並行して、高い教養と倫理観も要望される。一般社団法人日本動物看護職協会が示す動物看護の到達目標及び生涯学習プログラム教育には積極的に参加し、動物看護水準の向上に努める。

  4. 愛玩動物看護者は、良質な動物看護を提供するために、動物医療福祉関係者等と協働する。

      愛玩動物看護者は、看護動物に対して最良の動物看護および動物医療を提供するために、他の動物医療福祉関係者等と協働し、より質の高い動物看護および動物医療を提供するように努める。

  5. 愛玩動物看護者は、動物看護に必要な基準に従い、それに基づく看護実践を通して専門的知識・技術の向上に努め、動物看護学の構築と発展に寄与する。

    動物看護の業務指針を策定し、その遵守に努め、動物愛護と福祉の向上を図る。動物看護の実践基準として、動物看護の技術や方法等を設定する。愛玩動物看護者は、最新の知見を活用して動物看護を実践するとともに、より質の高い看護を提供できるよう、新たな知識・技術の開発に努める。また、科学の進歩および社会の価値観の変化に対応し、常に最良の動物看護学を構築し、動物愛護と福祉の向上に寄与する。

 

Ⅳ 愛玩動物看護者の社会に対する倫理と責任

  1. 愛玩動物看護者は、自らの品行を常に維持し、社会の信頼を得るよう努め、同時に良質な動物看護を提供するため、自己の健康保持と増進に努める。

      愛玩動物看護者は、動物飼養者との信頼は不可欠である。動物看護に対する信頼は、専門的知識や技術のみならず、誠実、礼節、品性、清潔、謙虚などに支えられた行動および社会の信頼が不可欠である。専門領域以外の教養、社会的常識も必要である。さらに、一般社会人に求められる倫理観や知性に加えて、動物看護者に相応しい倫理と品位を保持しなければならない。なお、動物看護は、動物飼養者とのコミュニケーション、他の動物医療福祉関係者との協働等、心身の負担も少なくない。その業務の完遂には、強固な意志、頑強な体力を必要とする。また、愛玩動物看護者自身の受傷を防ぐには、常に細心の注意が求められる。これらは愛玩動物看護者の健康状態にも関連し、常に健康に留意し動物看護に臨むように心掛ける。

  2. 愛玩動物看護者は、動物の看護とともに、人と動物の共通疾病に配慮し、人の健康並びに公衆衛生に貢献する。

      人と動物の共通疾病は180種を超え、なお、増加傾向にあると言われている。愛玩動物看護者は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」、「狂犬病予防法」等の意義を理解し、動物衛生上のみならず公衆衛生上重大な影響を及ぼす可能性のある法定感染症の知識、予防法等を修得する必要もある。愛玩動物看護者は、動物飼養者に対し動物と人との共通疾病について啓発して感染予防に努める。

  3. 愛玩動物看護者は、動物愛護および適正飼養の普及に努め、より良い社会づくりに留意し、環境問題について認識を深め、その改善に貢献する。

      愛玩動物看護者は、人と動物のより良い共生社会を構築するため、動物愛護および適正飼養を社会に対して働きかけ、環境を整備し、自然環境の破壊や社会環境の悪化に関連する問題について、その改善に貢献する。また、愛玩動物看護者は、動物医療廃棄物の適切な処理などにも留意し、動物医療福祉活動による環境破壊を防止する責務を果たすとともに健康な社会づくりに積極的に取り組む。

  4. 愛玩動物看護者は、一般社団法人日本動物看護職協会を通じて、愛玩動物看護者の社会的認知と評価を高め、動物医療と動物看護の発展に寄与し、人と動物のより良い共生社会の実現に貢献する。

      愛玩動物看護者が、その責務を果たすためには、動物医療や動物福祉のみならず、地球環境の保全、社会経済、医療福祉等、多様な社会問題について積極的に学ぶことが求められる。また、愛玩動物看護者としての資質の向上や社会的認知には、専門職組織を基盤として行動することも必要である。愛玩動物看護者は、職能団体である一般社団法人日本動物看護職協会を通じて動物の看護および愛護と福祉に貢献し、人と動物の共生と平和な市民生活に貢献する。

 

附則:『愛玩動物看護者の倫理綱領』は5年毎に見直すものとする。


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