愛玩動物看護師の業務指針

ホーム愛玩動物看護師の業務指針
一般社団法人 日本動物看護職協会
2022年3月制定

はじめに

高度経済成長に伴い、1980年頃より犬・猫等の愛玩動物を飼養する家庭が増え始め、その後「小動物診療」と呼ばれる家庭で飼育される愛玩動物に特化した動物病院が急増した。愛玩動物の飼養者の意識変化と動物診療の高度化、多様化が進む中、動物病院においては、獣医師のほかに動物の療養上の世話をはじめとする種々の獣医療関連業務と、飼養者に対する適切な動物診療を提供するため支援する従事者、いわゆる動物看護師が不可欠な存在となった。

また、近年は、単なる愛玩動物としての飼養に留まらず、人と動物の関係が人に与える影響の重要性が認識され、動物を介在した介護や福祉、疾病治療、機能回復、教育に関する諸活動などが行われるようになり、その社会的な意義は増している。このように、愛玩動物を取り巻く状況が変化する中、より安全・安心な獣医療提供の基盤の構築には、獣医師と動物看護師によるチーム獣医療の提供体制の整備や動物看護師によるしつけ等の活動の充実がますます期待されることとなった。

動物看護師は、一定レベルの知識・技術を有する「質の保証された」人材になることが重要であるとされ、20196月『愛玩動物看護師法』が制定、新たに愛玩動物看護師として資格が法制化された。愛玩動物看護師は、獣医師の指示の下、愛玩動物の診療補助、愛玩動物の看護、動物愛護および 適正飼養に関する支援を業とし、チーム獣医療提供体制の一翼を担い、その責務を果たすこととなる。

一般社団法人日本動物看護職協会(以下、本会)は、20201月、すべての動物看護実践の指針となる「愛玩動物看護者の倫理綱領」を制定した。これにより、獣医療施設等における愛玩動物の看護を実践する専門職としての行動指針と動物看護実践を振り返る際の基盤を提供し、また社会に対して愛玩動物看護者の責任範囲を明確に示している。

20223月現在、愛玩動物看護師法の全部施行には至っておらず、愛玩動物看護師免許取得者は存在していない。なお今後、愛玩動物看護師の誕生後も暫くの間は、愛玩動物看護師と免許を持たない者が混在することとなるが、法により定められるそれぞれの領域・職種・立場での果たすべき 役割を見極め、動物看護の専門性を追究し続ける必要がある。本会では、愛玩動物看護者の日々の業務指針として、この「愛玩動物看護師の業務指針」が有効かつ適切に活用されることを心より期待する。

なお、「愛玩動物看護師の業務指針」については、法に則した内容となるよう 5 年ごとに見直し整備する。

愛玩動物看護実践の基準

愛玩動物看護師は、「愛玩動物看護者の倫理綱領」(本会2020年1月制定)に基づき、獣医療施設等における愛玩動物看護を実践する専門職として、獣医師の指示の下、愛玩動物看護業務を展開する。また「愛玩動物看護師の業務指針」は、愛玩動物看護師が愛玩動物看護実践において従うべき行動規範である。

1) 愛玩動物の診療補助

1)-1 愛玩動物看護師は、主治の獣医師の指示のもとに適切な診療補助行為を行う

愛玩動物看護師法第40条並びに第41条が定めるところに基づき、愛玩動物看護師は獣医師との緊密な連携を図り適正な獣医療の確保に努めなければならない。また、愛玩動物看護師でない者が獣医療補助行為を業務とすることはできない。

1)-2 看護動物並びに飼養者に安心と信頼を提供できるよう安全な診療補助を行う

愛玩動物看護師が獣医療補助業務を実施する際、対象の反応を観察し適切な対処をする必要があ る。また、看護動物に対して実施されている検査や治療、リハビリテーション等に際して、動物の安全・安楽が守られるよう支援する。

2) 愛玩動物の看護

2)-1 愛玩動物の生命と権利を尊重し、動物愛護と福祉の向上に努める立場で行動する

愛玩動物看護師の行動の基本は、動物の生命尊重と愛護、福祉の向上にある。しかしながら、動物の生命尊重や愛護、福祉と人の生存や利益の間に生じる矛盾があることを念頭に置き、極めて高度な倫理的配慮のもとに判断して行動を選択しなければならない。獣医療に携わる者は、動物を主体として捉え、動物は人に対して何を求めているかを常に考え適切な対応を心掛けなければならない。

2)-2 動物看護を必要とする動物及び飼養者に、身体的、精神的、社会的側面から支援を行う

愛玩動物看護師は、動物看護を必要とする動物及び飼養者を、身体的、精神的、社会的側面から捉え、その対象がおかれた環境・動物種に適した生活を送ることができるよう支援する。

2)-3 看護動物を継続的に観察し、療養上の問題を把握したうえで適切に対処する

愛玩動物看護師は、看護動物及び飼養者にとって最善の状態へ導くため、安全・安楽を考慮した動物看護を提供する。看護動物の療養生活支援の専門家として、その健康状態や生活環境等の必要な情報を収集し、判断し、動物看護上の問題を明らかにする。それらに基づく動物看護計画を立案し、実践、評価を行う。この一連の動物看護過程を実施することにより、健康状態や生活環境の変化に敏速かつ柔軟に対応し、また、動物と飼養者が変化に応じた日常生活行動が行えるように知識の提供や精神面への支援を行うことができる。なお、動物看護過程は、常に動物看護実践に対する対象の反応を評価観察し、適宜見直しを行わなければならない。

2)-4 専門的知識に基づき動物看護を行う

愛玩動物看護師に必要な専門知識とは、愛玩動物の看護領域に限らず関連分野の知識も含む。愛玩動物看護師は、根拠に基づき対象の状態を識別し、専門的知識に基づく愛玩動物看護師としての判断を行う。愛玩動物看護師が行う動物看護の内容は、広くその時代に受け入れられている最新のものでなければならず、そのために日々、自己研鑽に努めなければならない。

2)-5 動物看護実践の内容及び方法とその結果を記録する

動物看護実践の記録は、愛玩動物看護師の思考の過程と行為を示すものである。動物看護実践の内容などに関する記録は、他の愛玩動物看護師及び動物看護関連業務に携わる者との情報の共有や、 動物看護実践の継続性、一貫性に寄与するだけでなく、行った動物看護実践の評価及びその質の向上に加え、看護動物情報の管理及び開示のための貴重な資料となる。その組織の現状に即した動物看護実践記録を導入し、専門職としての判断と実施内容が正しく記載されるべきである。

2)-6 動物看護実践の内容を検討し研究することで、動物看護の質及び技術の向上を目指す

愛玩動物看護師は、より質の高い動物看護を提供できるよう、動物看護実践の内容を随時振り返り、またそれらを動物看護研究として集約する。また、動物看護研究の成果を互いに共有すること により最新の動物看護の構築へと繋げる。

3) 動物愛護及び適正飼養に関する支援

3)-1 人と動物のより良い共生社会の構築に向け、愛玩動物の飼養者および社会に対する働きかけを行う

人と動物のより良い共生社会の構築には、動物の愛護および適正飼養、保護等、様々な課題がある。愛玩動物看護師は、これらを十分に理解したうえで、動物の愛護および適正飼養の規範を広く啓発するよう努め、動物福祉活動に積極的に参加する。

3)-2 人と動物の健康的で安全な社会生活を目指し、社会環境の整備、保健衛生管理に関する働きかけを行う

自然環境、生活環境の保全なくして人も動物も健康的な生活を営むことはできない。また、人獣共通感染症等により健康を脅かされる恐れがある。愛玩動物看護師は、専門知識に基づき保健衛生、 環境衛生活動を実践し、人と動物を取り巻く環境の安全を維持するための働きかけを行う。


↑ページの先頭へ戻る